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大阪地方裁判所 昭和61年(わ)1511号 判決 1988年12月07日

本店所在地

大阪府豊中市寺内二丁目三番四号

オスカー物産株式会社

(右代表者代表取締役 片岡一雄)

本籍

福井県遠敷郡名田庄村納田終第六九号五番地

住居

大阪府堺市赤坂台五丁目五番一一号

会社役員

左近戸憲治

昭和二二年五月二四日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官藤村輝子出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人オスカー物産株式会社を罰金一億円に、被告人左近戸憲治を懲役二年に処する。

被告人左近戸憲治に対し、この裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人オスカー物産株式会社(以下、被告会社という。)は、大阪府豊中市寺内二丁目三番四号に本店を置き、遊技機の販売等を目的とする資本金三〇〇〇万円の株式会社であり、被告人左近戸憲治(以下、被告人という。)は、被告会社の代表取締役等としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人は、分離前の相被告人中谷善秋、同古田収二らと共謀の上、被告会社の業務に関し、その法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得の一部を秘匿した上

第一  被告会社の昭和五七年四月一日から同五八年三月三一日までの事業年度における実際所得金額が二億八七六一万一六〇九円(別紙(一)修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、同五八年五月二六日、大阪府池田市城南二丁目一番八号所在の所轄豊能税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二七一万八七一〇円でこれに対する法人税額が三七万二〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億一九三九万一四〇〇円と右申告税額との差額一億一九〇二万一二〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

第二  被告会社の昭和五八年四月一日から同五九年三月三一日までの事業年度における実際所得金額が五億六五四〇万三三七三円(別紙(二)修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、同五九年五月二八日、前記豊能税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一六二〇万六二二五円でこれに対する法人税額が四九五万七六〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額二億三五六二万四〇〇円と右申告税額との差額二億三〇六六万二八〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告会社代理人兼被告人の当公判廷における供述

一  第一回、第一五回ないし第一七回各公判調書中の被告会社代理人兼被告人の供述部分

一  被告人の検察官に対する供述調書八通(証拠等関係カード検察官請求分番号78ないし85)

一  第一回公判調書中の分離前の相被告人中谷善秋、同古田収二及び同末村寛治の各供述部分

一  第一八回公判調書中の分離前の相被告人末村寛治の供述部分

一  第八回ないし第一一回各公判調書中の証人中谷善秋の供述部分

一  第一一回及び第一三回各公判調書中の証人古田収二の供述部分

一  証人古田収二に対する当裁判所の尋問調書(第一二回公判と併合して行われた公判準備におけるもの)

一  分離前の相被告人中谷善秋の検察官に対する供述調書二通(前記番号89、90)

一  分離前の相被告人古田収二の検察官に対する供述調書四通(前記番号106ないし108、112)

一  分離前の相被告人末村寛治の検察官に対する供述調書三通(前記番号123、128、130)

一  久保田義廣の検察官に対する供述調書二通(前記番号32、33)

一  収税官吏作成の査察官調査書六通(前記番号19ないし22、29、106)

一  法人登記簿謄本二通(前記番号松15、214)

一  法人登記簿閉鎖役員欄の用紙の謄本三通(前記番号215ないし217)

判示第一の事実につき

一  収税官吏作成の査察官調査書(前記番号27)

一  豊能税務署長作成の証明書(法人税確定申告書写添付のもの、前記番号8)

一  収税官吏作成の脱税額計算書(前記番号1)

判示第二の事実につき

一  収税官吏作成の査察官調査書七通(前記番号23ないし26、28、30、31)

一  豊能税務署長作成の証明書(法人税確定申告書写添付のもの、前記番号9)

一  収税官吏作成の脱税額計算書(前記番号2)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予することとする。

さらに、被告人の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、いずれも法人税法一六四条一項により判示各罪につき同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金一億円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人の統括していた被告会社において、会社の不況時に備え資金を蓄積するなどのため、判示犯行に及び、結果として二事業年度にわたり合計約三億五〇〇〇万円の法人税を免れたという事案であるところ、そのほ脱額は右のとおり多額であり、ほ脱率も二事業年度平均約九八パーセントと高率である上、右ほ脱の動機とても格別酌むべき事情とはなり得ず、また、被告人は、共犯者古田収二からほ脱の話を持ちかけられて当初は若干しゅん巡していた経緯が認められるものの、ひとたびほ脱を決意した後は申告税額の決定に積極的に関与するなど、本件各犯行の主要な役割を果たしたものであって、被告人及び被告会社の刑事責任にはかなり重いものがあるといわなければならない。

しかしながら、被告人は、本件発覚後は素直に事実を認めて反省の情を示していることのほか、犯行の態様も、現金出納帳、銀行帳等の帳簿の改ざんまでは伴っておらず、特にこれが巧妙で悪質なものとまでは評し得ないこと、本件犯行は同和団体の組織を利用してなされたものであるが、この種ほ脱事犯については当時の税務当局側の対応にも問題がなかったとはいえないこと、被告会社においては、本件ほ脱税額に関し、本税は既に全額納付済みであり、附帯税についても今後その残額を逐次納付の予定であること、被告人には業務上過失傷害罪による罰金以外の前科がないことなど、被告人らのために酌むべき事情も存するので、これらの諸点をも考慮に入れて、被告人らをそれぞれ主文掲記の刑に処し、なお、被告人に対してはその刑の執行を猶予するのが相当と考えた。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白井万久 裁判官 松本信弘 裁判官 的場純男)

別紙(一) 修正貸借対照表

オスカー物産株式会社

昭和58年3月31日現在

<省略>

別紙(二) 修正貸借対照表

オスカー物産株式会社

昭和59年3月31日現在

<省略>

別紙(三) 税額計算書

オスカー物産株式会社

<省略>

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